帰省、『RRR』、『<個>の誕生』など

 年末年始に山口市の実家に帰省。両親のいないがらんとした家。姉が時々来てはメンテナンスをするくらいの家。日本の家は寒い。冬の実家は寒いとわかっていたし、温める人もいない現在だから、こりゃ冷えるなあと思って、駅に着く早々ホームセンターでプチプチを買った。木枠でガラス1枚の窓に貼りまくる。多少は効果があるのではなかろーか。蛇口から出る水は茶色だった。しばし出し続けるが鉄サビの臭いが当分残る。不在の家の現象に少々しんみり。台所の水道は根元から水漏れ。うーむどうしたもんかと思ったが、しばらくすると止まる。恐らく水を流す人がいないので、パッキンが乾燥して止水できない状態だったのだろう。水が染み込むとパッキンは膨張してその役目を果たし始めたと考える。まあいずれ変えなければならんだろう。数年後は実家で暮らすつもりだが、メンテナンスを考える機会でもあった。この度は正月を祝うことはないが、姉夫婦、その子供夫婦2組、その子供たち4人がやってきて正月に宴会。これは賑やかで楽しく過ごせた。田舎の家は皆が集える場所がある。昔ながらの季節の集いがあるのは、不在の家を明るくした。

 そして東京で1月が進む。『バーフバリ』『マガディーラ』の大ファンである私と連れ。ついに『RRR』を新宿ピカデリーで観た。ゴールデングローブ歌曲賞も受賞し、ロングランがさらにロングラン、1番大きいシアター1での鑑賞となった。すごいじゃないか!ネットでは既に大盛り上がり、シーンも、音楽も、主役二人も絶賛だ!『マガディーラ』で知ったラーム・チャランが途方もなくかっこいい。連れは特に『マガディーラ』ファンなので私の数倍感動した模様。生まれて初めて3回見に行く。品川のIMAX。そして新宿バルト9のドルビー!ファンはブルーレイを心待ちにしている。私たちもだ。そしてまた繰り返してみるのであろう。今のところ、IMAXでの奥行きを感じさせる画面が良かったと思っているが、そんなのは些細な違いなので、小さな感想というまで。

 ところで『マガディーラ』で100人の敵と戦うシーンで、一瞬静かになって流れる音楽、その歌詞を読んだときに、これは『バガヴァッド・ギーター』的だなあと思っていた。『バガヴァッド・ギーター』は時に読んでいたのでなんとなく。『RRR』ではダイレクトに、『バガヴァッド・ギーター』からの言葉が語られていた。ラーマ役のラーム・チャランが監獄で言うセリフ『責務は行為そのものにある。その結果にはない・・・』のところ。(上村勝彦訳は職務だけど、ほぼそのまんま)いやーこれがまた泣かせますね。『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』が取り入れられているのはインド映画ならではだろうなあ。いいねえ。本国では取り入れられ方に不満のある人もいるらしいが、それはそれ。私たちはとても楽しめた。

 そんな1月であるが、ものすごい本に出合った。『<個>の誕生』(坂口ふみ著/岩波現代文庫)である。この本の解説を書かれている山本芳久氏のTwitterをたまたま見かけて知った。まだ途中なのだけれど、坂口ふみ氏の途方もない知識と深く繊細な思考。まだ言葉がまとまらないんだけれど(いつもだが)、まずはそこに驚愕する。そしてキリスト教教理がどのように練り上げられていったかに眩暈がする。数百年をかけて論議されてきた教理、あまりの微妙な違い、だがそれが重大なことであり、徹底的に練り上げられていく過程。読んでてわけがわらなくなる。しかし、そのようにして西洋の<個>という概念が築き上げられていったのだろうと思う。(現在、第4章「キリスト教的な存在概念の成熟」の途中なんで、よくわかっていないまま書いてます。取り急ぎの驚きの感想までということで。)この<個>というものが、西洋世界の人々に深く浸透しているのだろうし、その<個>という概念が世界に行き渡っているから、我々もその上で考えているのだろうな。日本でも西洋を真似し始めた時からそれは考えざるを得ない概念だろう。それに影響を受けている、ということに自覚的にありながら、つまり、<個>という概念が深々と根差したものではなく、無意識的なものとして身についているものではない、ということに自覚的でありながら、日本人として改めて自分を考えてみる、ということが必要なんかな、と思うようになりました。

 余談だけど(余談しか書いてないか)、そんな世界では、スピノザの著書がいかに許されないものだったのかがより感じられるようになった。スピノザ・・・すごい。

 もう一つの余談、本書あとがきに、「・・・同僚の畠中美奈子、岩田靖夫の両教授にまずお礼を申し上げたい」とある。おお、あの『畠中尚志全文集』(講談社学術文庫)にある「思い出すままに」の著者、畠中美奈子氏、畠中尚志氏の長女!國分先生がお会いになられたその方!ではないか!そこにも何か感動するものがありました。

 冷える1月に熱い感動話でした。