「マガディーラ 勇者転生」を観てバガヴァッド・ギーターを思い出す

 「バーフバリ」シリーズからラージャマウリ監督作品2作品を立て続けに観た。ハエに転生する「マッキー」はハエに共感できずに、1回で止めた。「マガディーラ 勇者転生」は「バーフバリ」と同じような雰囲気だけど、転生は「マッキー」と同じテーマでもある。400年前に勇者と王女のかなわぬ恋、そして現代、転生したこの二人が色々あってやっと結ばれる・・・という物語。「バーフバリ」もそうだったのだけれど、本作もなんだか繰り返し観ている。監督の物語の運びが上手いのか、音楽もいいと思うし、最近とても面白いと思っている映画。

 400年前の時代、転生前の勇者バイラヴァが100人の敵を倒すシーン。矢を受け瀕死の状態でも闘い続ける時に、静かに流れる歌の字幕は「勇者よ その命今ここに尽きようとも 戦いを放棄することなかれ」「勇者よ その静寂が今まさに尽きようとも 戦いを放棄することなかれ」と出る。

 ラージャマウリ監督は子供のころインドの神話の漫画などをよく読んでいたと、どこかで見た。「バーフバリ」も本作もシヴァ神に祈りを捧げるシーンはとても多い。転生もあんまりこだわっているわけではないと、インタビュー記事であった思う。エンターテインメントの監督なので、それらにはそれほど深い意図はないのではないかもしれないが、親しんだ漫画や何よりインドなので、なじみのあるテーマなんだろうなと勝手に思う。

 つらつらとそんなことを考えつつ、上記の歌の字幕は、なんとなーく関係あるのかも、と思い出したのが「バガヴァッド・ギーター」。インド一大叙事詩「マハーバーラタ」に収められている韻文詩。「マハーバーラタ」は読んだことがないし、ヒンドゥー教もよくわからないけど、「バガヴァッド・ギーター」は、以前面白そうだと読んだ。兄弟親族同士で大戦争が今行われようとする時、戦士である王子アルジュナがなんで親族と闘わんといかんの?と苦悩し、問いかけるのを、彼の指導者にして御者になっている、ヴィシュヌ神の化身クリシュナがその悩みに答え、励ます、というもの。あまりに有名な本で、名前を知らない人は少ないのではないかと。私が手にしたのは「神の詩 バガヴァッド・ギーター」(田中嫺玉訳 TAO LAB BOOKS)。訳がとても親しみやすいので読める。この本や「マハーバーラタ」については「松岡正剛 千夜千冊1512夜」を見た。

 パラパラとめくって見つけたところ、第2章の47の詩「君には 定められた義務を行う権利はあるが 行為の結果については どうする権利もない 自分が行為の起因(もと)で 自分が行為するとは考えるな だがまた怠惰におちいってもいけない」次の48の詩「アルジュナよ 義務を忠実に行え そして 成功と失敗を等しいものとみて あらゆる執着を捨てよ このような心の平静をヨーガというのだ」あたりはなんとなく近いかなと思ったりした。他にもきっと通じるところはあるだろう。「バガヴァッド・ギーター」の哲学やヨーガの世界はインドのみならず世界の人々に影響を与えているだろうから、ラージャマウリ監督が読んだ神話本にも当然その思想は流れているだろう。また、シヴァ神やクリシュナ神は今でもあがめられているのだろう。だから監督が制作する映画にも反映されてるのだろうなと。そんなことをまた思いつつ「マガディーラ」を観るのであった。

 ところでラージャマウリ監督が新作を撮影中とのこと。仮(?)タイトル「RRR」というのは監督と二人の主役(一人はマガディーラの主役ラーム・チャラン)の頭文字らしい。来年インドで公開予定。日本での公開が楽しみだ。しかしその時、まだ私の興味は続いているのだろうか。